●職人のひとり言●



●目次●

①ハンコ屋に入った時職人に恐い目でジィーっとにらまれた事はありませんか?
②普通の方の1ミリって単位はどんな感覚ですか?
③印鑑業界もスピード時代の世の中ですが少しだけ納期に余裕を下さい。
④印材についてどちらが正しいと思われますか?

⑤20歳代の頃は、早く歳をとりたいといつも思っていました。
⑥男としての器量が下がってきたのでしょうか?
⑦やりがいのある印鑑の仕事をしている時の気分は「高倉健」さんです。
⑧あなたは「印鑑派」ですか?それとも「印章派」ですか?

⑨印鑑職人は「手先が器用で良いですね。」とよく言われますが。
⑩心やさしき人。
⑪「最高の印鑑彫刻技術です!」と言えない理由があります。
決して腕が悪いわけではありません。



①仕方の無い場合もありますのでお許し下さい。悪気は全然ありません。

店に入った瞬間、印鑑職人のあまりの恐しい目つきに、若い女性なら思わず逃げ出したくなってしまうかもしれませんが、これには深~い(浅い)理由があります。

それは長時間、印鑑を彫刻するという細かい仕事を続けていると、目の焦点が、固定され急に来店されたお客様のお顔に目の焦点が合うのに時間がかかるからです。

それでついジィーっとお客様のお顔をみつめてしまうのです。

若い頃は、印鑑を彫刻中でも、比較的早くお客様のお顔を確認することができましたが、今では特に夕方位になると目も疲れてきて中々焦点が合わないこともあります。

しかし考え様によっては、目の焦点がすぐに合わないくらい、一生懸命に印鑑彫刻の仕事に打ちこんでいるということは、案外良い印鑑職人の店なのかもしれません。

もし、今後どこかのハンコ屋で、そういう体験をされた時には、なにとぞ深い慈悲の心を持たれて、エライ!オジさん頑張って仕事してるんだなと思い、大目に見てあげてください。また、印鑑をお買い上げいただければ更に良いと思います。




②お気を付け下さい。ハンコ職人のミリ単位の感覚。

お客様より、あるマークを1ミリくらいの線で囲ってくれとの注文を受け、言われた通りにしてして商品を納めました。

しばらくしてクレームのお電話。どうして?言われた通りの仕事をしたのに。

問題は、1ミリに対する感覚の違いでした。一般的には、ミリ単位の仕事やミリ単位の差とかいう言葉は、小さいあるいは細いという意味で使われることが多いようです。

しかしハンコの世界では、1ミリというのは太い線の部類に入ります。それに対してお客様の感覚では、細い線で囲ってくれという意味で使われていたようです。

又よくある事ですが、印鑑を注文されるお客様の中に、1円玉位の小さい物でよいと言われビックリすることもあります。

一般には、小さいと思われている実際の1円玉の直径は、イメージと違い意外と大きなものなのです。(約2㎝あります)

ハンコ職人は、ハンコの世界だけではな、く世間一般の常識を考えて仕事をするときは、気を付けなければいけない事だと思いました。




③印鑑彫刻は、出来ましたら最低3日間いただけましたらと思います。

お客様のご要望に合うように、出来る限りの対応をとることは当然の事です。事実最近は、急ぎの仕事が増えてきました。

しかし消耗品と違って実印は、一生残る物です。おろそかには出来ません。最低中3日いただきたいのには理由があります。印鑑のご注文(課題)をいただきますと、まず頭の中に、文字の基本的な構成が浮かびます。

1日目には、印鑑全体の文字の大体の構成を思いえがき、文字を印面に入れて(書いて)みます。ここで彫ってしまえば修正はききません。初めて書いたラブレターを思い出してみて下さい。思いのままをサッサと勢いで書いて投函されましたか?やはりあー書こう、こー書こうと何度も考えられたはずです。

そして、印鑑に文字を入れたまま1晩そのままにしておきます。翌日に見直してみると、ここはこうやった方が良かった。この文字はこの形にした方が良いと思う事があります。

2日目には、昨日入れた印鑑の文字を修正して、いよいよ彫刻に取りかかります。彫刻技術の方は、手仕事ですが常に安定させる為に努力しております。

3日目には、補刀(ほとう)を行います。補刀とは2日目に仕上げた印鑑の、再点検の意味での最終仕上げのようなものです。

以上が終わりまして、お客様に安心してお渡しする事ができます。




④未だにこの事を考えると夜も眠れなくなってきます。

通常の印材を仕入れるときに、毎回頭の中で考えている事です。

職人の私は、まず印面(彫刻面)を見ます。修行時代より技術畑を歩いてきましたので、印面を第一に考えていました。その後は側面や頭(印面と反対の所)を見ます。

しかし修行を終えて商売をはじめた頃に、ある方より、印材を仕入れるときのポイントはまず印材の頭を見るといわれました。

理由を伺いますと、印面は彫刻すると見えなくなるので、頭の方を重視されるとの事でした。なるほど!とも思いましたが、今ひとつピンときません。一番大切なのは印面のはずなのに?

確かに象牙では、印面がきれいに整っているものでも、頭の部分がやや乱れているものもありますし、水牛でも印面では、芯が中心に来ているのに頭の部分では、少しずれているものもあります。

それからは、印材を仕入れるときには、印面はもちろんですけど印材の頭にも注意するようになりました。ただし、どちらかによりウエートを置くかと問われればやはり印面と答えます。

皆様は、どう思われますか?




⑤印鑑職人の世界では、仕方の無い事かもしれませんが。

実際には、少し事情が違うのですが、印鑑に限らず職人の世界では、歳を重ねれば重ねるほど上手いというイメージがあります。

そのおかげで20歳代の頃はつらかった。印鑑を注文されるお客様の「こんな若い職人にまかせて大丈夫かな」という不安そうな視線を感じる事が多々ありました。

中には「あなたが彫るの。大丈夫。」と実際に聞かれる方もいらっしゃいました。作り笑いの下からでもくやしい思いが、顔にでていたかもしれません。

印鑑の技術に関しては、自信(過信)満々の当時の私は、ひどく傷つきました。非行に走らなかったのが不思議なくらいです。昔の印影が残っているので分かりますが、未熟ではありましたが、今から見ても並みの印鑑職人には負けないくらいの仕事はしていたと言えます。

それなのにどうして信用してもらえないのか。若いから? ヒゲでもはやそうかと真剣に考えました。

そんな時は、いつも早く歳をとりたい。早くひと様から信用され、一人前として見てもらえるような職人になりたいと考えていました。

今にして思えば、当時の私では、年配のお客様から見れば子か孫の歳くらいにしか見えなくもないので、頼りなく感じられたのかもしれません。

肩コリのひどい今では、たとえ頼りなく思われても、元気で二日酔いにもならなかったあの頃に戻りたいなと思っておりますが・・・。




⑥アイスクリームがほしい訳ではありません。

⑤でも書きましたが、20歳代の頃、印鑑職人としては良いことは余りありませんでしたが、別の意味では時々ですが、良い事もありました。

夏の暑い日などに、急ぎの仕事をいただいたお客様より「お兄ちゃん。急がせて悪かったね。ありがとう」などとアイスクリームの差し入れや、お菓子をいただいた事もありました。

またバレンタインデーには、若いOLの方や女性のお客様より義理チョコをいただく事もありました。それが、ここ何年パッタリとなくなりました。

さみしい。別にアイスクリームやチョコレートが、食べたい訳ではありません。食べたければ自分で買えます。

どうしてかな。男としての魅力が、無くなってきたのでしょうか?

追伸。
残念ではありますが、私も今では押しも押されぬオジさんになりました。チョコレートなどと恐れ多い事も考えられなくなるようになりました。




⑦不器用ですが一生懸命彫刻させていただきます。

印鑑職人にとって一番嬉しい時はどんな時かわかりますか?

仕事を誉められた時。上手く彫れた時。それぞれありますが一番嬉しい時は、やりがいのある仕事をいただいたときです。

といっても別にオーバーな事ではありません。物は考えようで、やりがいは何処にでもころがっています。日常でハンコが必要になる時は、その人その人の人生の節目である事が多々あります。

ご注文をいただくときに、色々と話されるお客様もいらっしゃいます。子供がやっと就職できたと嬉しそうに話される方。子供が今度結婚する事になったと笑顔で話される方。待望の孫が生まれたとニコニコと話される方。

また、不景気なご時世ですが、永年かけた仕事がやっと軌道に乗ったと穏やかに話される方。念願のマイホームを建てられて若い頃は、お金が無くて欲しい物も買えなかったなどと淡々と話される方。

私に限らずこういうお客様の仕事には、力が入るものだと思います。大会社の社長の印鑑の横に押しても見劣りしない立派なものを彫り上げなくてはと。

ひとつ残念な事は、その熱意がお客様には伝わらないことです。ハンコの文字は、特殊なものですし一般の方が印面(彫刻面)を見てもそれが、手間ヒマかけられた仕事かどうか判別する事は難しいものです。

しかしそれでも良いのです。そんな時には、あこがれの「高倉健」さんになりきって私の彫った印章が、いつかどこかでお客様のお役に立てたらと心の中で願い、得意の網走番外地でも口ずさみながら一人旅に出る(配達に行く)のです。




⑧職人としてはできれば「印章」で登録したかったのですが。

「印章」と「印鑑」。ハンコを呼ばれる時にどちらを使われますか?全日本印章業組合連合会という団体では「印章」を正式名称としております。

正確には、印章はハンコそのものをさし、印鑑とは、捺印された印影の意味です。ただ最近では、印章・印鑑・印判・ハンコは同一の意味で使われておりますので、一般的には同じものと解釈して良いようです。

印章技能士には、ハンコの事を「印鑑」と呼ぶ人には、あまり出会った事もありません。また「印鑑」という言葉は、なんとなく霊感商法のイメージが先に来てあまり使いたくありませんでした。

しかし、ホームページを開設してから、各サーチエンジンに登録していくうちに、重大な問題につきあたりました。登録したはずのサーチエンジンから、あんたのホームページが見つからないとの友人の弁。

よく聞いてみると、検索する時のキーワードを印鑑で入れたとの事でした。その後、数人の友人・知人に伺ってみたものの誰一人「印章」という言葉を使われる方は、存在しませんでした。ほとんどの方が、印鑑もしくはハンコと呼ばれているみたいでした。

ディレクトリ型のサーチエンジンには、それまで「印章の・・・」と説明文を入れて登録しておりましたが、もはや一般の方には、印章という言葉は死語になっているみたいです。

どうでも良いと言われればそれまでですが、ハンコの職人としては、例え偏屈と言われても印章で通したかったのです。しかし友人に、検索されなければ意味が無いと言われしばらくは「ハムレット」の心境でした。

最近では、泣く泣く「印鑑」という文字を文章またはキーワードに入れて登録しておりますが、なんとなく割り切れないものを感じています。職人にしては軟弱なのでしょうか?




⑨手先はあまり器用な方ではありません。

先日、テレビ東京の「TVチャンピオン」という番組の担当の方より、第6回か7回かの「手先の器用選手権」という番組に、選手として出場してもらえないかとの突然の電話。印鑑では、密刻のような細かい絵柄まで彫れるのですから特に器用に思われたのでしょう。

恥ずかしがり屋で手先のあまり器用でない私は、丁重にお断りしました。

ハンコ職人は、一般の方からは手先が器用だと思われているようですが、意外と不器用な方も少なからずいらっしゃるみたいです。

印章彫刻技術に関しては、10年も20年も毎日毎日同じ作業を、繰り返し繰り返し一生懸命勉強してきましたので彫れるようになれただけです。

魚釣りが好きな私が、ぎこちなく釣り針にハリス(糸)を付けているところを、口の悪い友人などに見つかり「よくそれでハンコが彫れるなあ」などと言われ「ホンマにねェ~」と返す会話も1度や2度ではありません。

ただ単に「ハンコを彫る」という事に関してのみ、器用になれただけのようです。

あまり役には立ちませんが、唯一自慢出来るのは、一回で間違い無く針の穴に糸を通せるという事だけです。これには少し自信があります。




⑩私もかくありたいと思っておりますが。

親子2代でハンコ職人として勤めていらっしゃった息子さんのお話です。

70歳を過ぎた親父さんは、その方の師匠にあたる方で現役パリパリの頃は、しっかりとした仕事をされていたと伺いました。

しかし、引退される頃になるとやはり印章彫刻の細部の仕上がり(彫り)が、徐々に甘くなられていたのだそうです。

その方は、その事をオヤジさんに告げて良いものだろうか。また職人として、このままお客様にその印鑑をお渡ししても良いものだろうかとずいぶんと悩まれたそうです。

修行時代ならともかく、一人前の職人にとって自分が仕上げた印鑑を、他人に修正(補刀)されるというものは、屈辱的なものでとても耐えられるものではありません。

ただ、お客様にとっては、店側の事情など関係ありません。オヤジさんとお客様の間にはさまれたその人は、結局、オヤジさんに内緒で、見つからないように補刀されたといいます。

悲しくて聞けませんでしたが、その時のその方の心境はどんなものだったのでしょうか。

未熟者ではありますが、私もこの方のような職人になれたらと・・・。



⑪いつでも最高の品質でありたいと思っているのですが。

以前、お客様より「最適であろうと思われる構成をいたしますというのは、貴方が思う最適という意味なのでしょうか?」というお問い合わせをいただきました。

単刀直入なご質問に対して、冷や汗をかきながら「今まで私が勉強した中で、最適と思われる構成という意味でです。これは彫刻される方によって異なります。」としかお答えする事が出来ませんでした。

基本的な文字の形や構成の良し悪し。また、印章彫刻における刀法の技量の違い等の良否は、共通するものがありますが、それ以上のところは、中々難しいものがあります。

印章業界主催の全国展、全国印章技術大競技会や大印展(大阪府印章技術展覧会)では、通常半年前に課題が発表されます。

職人の意地と名誉?がかかっておりますので、心の中では「目標は最高賞。田舎職人の腕を見せてやる。」との意気込みです。

文字の形や配文・構成に自分の好みも入れながら、何通りも考へ推敲に推敲を重ね締切日までタップリと時間をかけて作製します。そして常に自分のその時点での最高のものを出品いたします。

いよいよ審査発表の日。待ちに待った審査結果が送られてきて・・・。

最高の技術と言えない理由がここにあります。

その夜、涙で枕を濡らしたかどうかは内緒です。


⑫印章の価格の違いにつきまして。

お問い合わせにも時々あることですが、実店舗やインターネットで印章店を回ってみますと、お店により価格差がある事に疑問を持たれるお客様もいらっしゃる事と思います。

印章の品質とは「印材の質」と、職人個々の技量や製造工程も含めた「印章彫刻技術力」の差の二点しかないと思います。

大量販売のお店を除きましてネットで閲覧してみますと、同じ様な手づくりの技術を売り物にされている店の中でも販売価格に多く差があるようです。

当店の場合でも、価格が高いと思われる御客様には一生懸命勉強をして技術を磨いておりますのでお許し下さいと申し上げるしかありません。

逆に気になるのは、価格が安いと思われている場合です。商品の価格は、商品の品質における対価と思われますので、価格が安い場合は品質(腕)が悪いと思われているのではないかと心配になる点です。

実際に調べてみますと印章の価格差は印章の品質の差もありますが、販売される地域別で価格に大きく差がみられるようにも思われます。

もし、当店の印章が他店の印章より価格が安い場合がありましでも、決して腕(品質)が悪いからではありません。(笑)



最後までお付き合いいただきありがとうございます
ハンコというものはニュースや新製品もほとんど無くホームページを更新するに足る内容があまりありません。そこで職人が普段思っていた事などを書いてみました。今後も更に加筆・修正していくつもりです。



 トップページへ ページのトップへ戻る



◆◆当ショップオリジナル◆◆


●(1)職人の目で見た印章ご購入のアドバイス。お買物の際には参考にして下さい

●(2)あなたのセンスをチェックしてみませんか?問題形式による印章構成法です

●(3)良い印章とは?印影をもとにして一般の方にも分かりやすく説明しております

●(4)ハンコ職人の技能グランプリ初出場4日間の奮闘と反省をこめた体験記です

●(5)ハンコ職人のひとり言です。普段なにげなく思っていることを書いてみました

(1)は大切と思いますが、その他は楽しんでご覧ください



実印・銀行印
実店舗
作品展示室
印材・書体
印章・ゴム印 「津田印房」
〒755-0029
山口県宇部市新天町2丁目7番5号
TEL0836-21-8634
FAX0836-21-8690
URL http://tsuda21.server-shared.com
メールtsuda21@jasmine.ocn.ne.jp
よくある質問
思い出の作品
訪問販売法表示
印章彫刻担当者