■印章彫刻技術は伝統工芸です■


印章の用途は広く信を後の世まで明らかに残すものです。官・公・私共に権利や義務を証明する書類に使用する事はもちろん歴史上の資料ともなりえます。

古い書画の鑑定などにも重要でありますが、それと同等に古印のもつ妙味、篆書・篆刻の優雅な趣きは書画を観て楽しむのと同じであるが故に古来より東洋美術の中に印刻の技が数えられているのもその為です。

職人の目

職人には印影からだけでもその印章の品質(良悪)が一目で分かります。①は技術者による手づくりの印章。②はおそらく大量生産できる全自動彫刻機で彫刻されたものと推定されます。

印章の構成法は色々とあり一概に説明出来ないところもあります。しかし間違いなく言える事は①と②とでは好み以前の問題で技術力の差が歴然としている点です。説明には私の好み(私見)も入っておりますが一般の方も参考にして下さい。


▲会社実印の説明例(原寸18㎜丸)▲
①やや太めの外枠に切れ味のある極細の軽快な社名(腕のたつ証拠です)。中枠の役職名(代表取締役印)も文字が太めで大きく構成されている為に、どっしりと安定感があります。外枠と中枠の文字に線の太細もとり入れている事でメリハリもありすっきりとして経営者の実印に相応しい風格を感じさせてくれます。
②刀法が未熟な為か外側の社名が太く切れ味もなく肝心の中枠にある役職名も線が細く文字の配文も小さい為に全体が不安定で弱く貧相です。また外枠と内枠の文字のメリハリがないゆえにすっきりと見えません。全体のバランス感を欠いているために貫禄がなく貧弱な会社実印になってしまっています。



①優れた技術者による手づくりの印影
角印(篆書体) 実印(印相体) 実印(篆書体) 銀行印


②おそらく大量生産の出来る機械彫りの印影



●説明の前提●

職人の目で見れば①と②の印影比較で全体てに通じて言えますのは文字の形(結体)の差です。これは好みや構成法以前の問題ですが1文字1文字を見れば①の方が文字の形も良く優秀な技術者が彫られたものと分かります。

そして、1文字1文字がオリジナル文字(職人の書いた文字)で構成されてあるのが分かりますので、印章として最も大切な唯一無二の原則を踏まえたものだと印影だけからでも感じられます。

また②には誤字も入っておりますがその2つの事には触れません。一般の方には細かい所ではなく出来るだけ見た目(感覚・雰囲気)で品質が分かっていただけるように説明していきたいと思います。

※掲載されてある印影は5種類ですが、同じ篆書体(てんしょたい)にも小篆体(しょうてんたい)・印篆体(いんてんたい)・またその中間とこれ以外の構成方法もあることを付け加えさせていただきます。


(A)実際の印影でないのが残念ですが両方を見比べると第一に感じる事は全体的に①の方がスッキリとしているところです。(ぬけが良いという意味です)

会社実印の例を見てください。①の方が中枠の中にある役職名が太い線で作られています。しかし②の方が線と線の間が窮屈に感じます。なぜそう見えるのでしょう。

●これは第一に刀法のにおける技量の違いによるところにあります。印章を仕上げるときには印刀(彫刻刀)で文字の線の両側を削りますので刃物の切れ味がないと線の輪郭がガタガタになり押印したときの線が弱くぼやけてしまうからです。

●印章の構成法をおろそかにしているためです。印鑑はただでさえ小さい物で、特に会社実印の場合は小さなスペースに沢山の文字が入ります。それなのに更に文字を小さく配置した事で余計に窮屈になってしまいます。章法における基本的なセンスの問題です。

●字法(文字の形の選択)が悪い為です。篆書体(てんしょたい)には一つの文字に何種類もの結体(文字の形)があります。例えば文字数の多い場合は文字のスペースが限られてきます。その時にはなるべく字画(文字の画数)の少ない結体の文字を選ぶ等の工夫が必要です。

●章法(文字の配文・構成)による分間の調整(文字による線と線との間かく)、字割の調整(文字の粗密・繁簡による文字の大きさ)がおこなわれていないからです。スッキリと見えないのは線と線との間が②は極端に窮屈な所と不必要に広い所があるからです。

どうしても文章で説明すると専門用語が多くなりすぎるようですみません。

(B)見た目では①に比べて②の方はなんとなく落ち着きがなく安定感が感じられません。どうしてでしょう。

(A)に比べて難しい所です。(A)は言葉で説明できる部分も多いのですが(B)は専門的な事(字形・構成等)を除くと理論よりセンスや感覚の部分が重視されます。これが完全に分かれば私を含め全ての印章技能士も悩みがなくなります。

印相体を例にとれば①と違い②は部分的にいたずらに線を動かしすぎて文字の重心(形も)を崩しているからです。書体にもよりますが不必要で極端な曲線は結果的に文字の安定感を阻害します。緩やかな曲線は文字の安定に役立ちますが不自然なものは全てを台無しにしてしまいます。

角印(社印)を例にとれば②の方は枠と文字との太さの違いが少なくメリハリが感じられない為です。細い線を使うときにはそれを受け止めるだけのある程度の太さの枠の存在も大切なことです。

●角印の例ですが②は一本一本の線に勢いがないからです。会社実印や角印は細い線を使用する事が多いので文字の線質(線の切れ味)が非常に重要になってきます。実際の印影で無いのが残念ですが細い線だけに刀の切れ味がないと文字自体が貧弱になり全体の印象が弱く感じられます。

●篆書体を見れば分かりますが線の起終筆(線の始まりと終わり)がおろそかにされている為です。これは刀法が未熟な所と全体に神経が行き届かない所、一本一本の線を大切にしていない所からきています。

●文字の全ての転折(線の曲がり角)部分が同じようなカーブ(直角の角を丸くしたような)で丸ゴシック体みたいだからです。篆書というものは書(毛筆で書く文字)を基本にしていますので場所により力の入る所や緩やかに曲がる所が存在して全体を安定させています。

どんどん専門的な説明になってきましたが細かい所は省略して要は良い印影の雰囲気を感じとっていただければよいと思います。

※見本の実印・銀行印の印影はやや太めの線のものを使用していますが、これは画面で見やすいためで線が太い方が良いというものではありません。

●あとがき●
印章の説明は文章では難しく真意が正しく伝わっていないのではと不安になります。専門的な説明では一般の方には分かりにくくなると思いなるべく感覚(雰囲気)で見分けられるようにと書いていきましたがまだまだ不充分な説明になってしまいました。
●今後さらに時間をかけて加筆・修正をして充実させていきたいと思っております。


★職人の価値観★

もし、上記の会社実印が同じ価格で①が本つげで②が最高級の本象牙で彫刻されて販売されてありましたら、どちらの商品をお買い求めになられますか?

私でしたら、ためらわずに①を選びます。理由は2つあります。第一に、彫刻されてある文字が技術の高い職人の書いたオリジナル文字(人間が書いた文字)であるという点です。

印章の品質で最も大切なものは、印面(彫刻面)にあると思うからです。大切な印影は後の世まで残るものですので、少しでも美しいものに仕上げたい。その為に多くの職人が日夜技術を磨いております。

もう一つの理由は②が量産品という点です。『唯一無二』が原則の印章では、印章本来の役割を果たしていないと思うからです。

印材というものは、その人その人の印章に対する思い入れというものががありますので、お好みに合ったものをお選びになられるのが良いと思います。

印材としての価値としては②の方が高いのですが、量産できるものですので、唯一無二が原則の印章としての存在価値は、希少価値を含めまして①とは比べものにならないものと思うからです。



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◆◆当ショップオリジナル◆◆


●(1)職人の目で見た印章ご購入のアドバイス。お買物の際には参考にして下さい

●(2)あなたのセンスをチェックしてみませんか?問題形式による印章構成法です

●(3)良い印章とは?印影をもとにして一般の方にも分かりやすく説明しております

●(4)ハンコ職人の技能グランプリ初出場4日間の奮闘と反省をこめた体験記です

●(5)ハンコ職人のひとり言です。普段なにげなく思っていることを書いてみました

(1)は大切と思いますが、その他は楽しんでご覧ください



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