●職人の道具● |
印章彫刻の道具は、技術者一人ひとりによりまして様々です。下記の道具は、私の印刻師としての人生のささやかな歴史のような物です。 今までと同様にこれからもお世話になる愛着のある大切な作業道具です。 |
◆仕上刀◆ | |
仕上刀とは、印章彫刻の最終工程でもある仕上げに使用する印章の良否を決める最も大切な道具の一つです。 |
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荒彫りだけではどんなに丁寧に彫刻しても字入れした文字よりやや太めになりやすく又、文字の線も生き生きとしてはおりません。 仕上の役割は、荒彫りされた印章の文字の形を整えるとともに、線の優雅さや筆の流れ、筆力を表現し文字に生気を与える作業です。 そして仕上という作業を施す事によりまして、「唯一無二」という印章にとって最も大切な決まり事が守られます。 |
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仕上刀ほど、印刻師によって形(角度や厚み)が違う道具はありません。 私の好みは、先端の角度を鋭くして刃の厚みのある仕上刀です。仕上刀は、彫刻者により刃の厚みや角度が様々で、技術者の個性が最も形に出る道具です。 |
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★仕上刀の思い出★ | |
彫刻道具で最も興味があるのが仕上刀です。技術者により形や角度が違い、又、押して切られる方も引いて切られる方もおられます。 もし、競技大会等で道具を忘れたとしても、荒彫り用の印刀の場合はお借りしてもなんとか彫刻出来ると思いますが、仕上刀だけは自分の物でなければ上手く彫刻出来ないと思います。 技能グランプリや大阪府技能競技大会、技能検定のような、直接道具を持ち込んで、会場で彫刻するような大会では、他の技術者に仕上刀を見せていただくことも多くありました。 本当に色々な形が有り、興味深く思いました。ちなみに私の仕上刀は、技能グランプリの時にある技術者の方から「包丁」と呼ばれたことを思い出します。 修行時代に、親指の付け根が腫れ上がるほど仕上刀を研ぐ練習をしましたので、切れ味の良い仕上刀には少し自信があります。 |
◆印刀◆ | |
印刀とは、字入れをした印章を、文字の部分を残して彫刻する荒彫り(粗彫り=凹凸をつける)をする時に使用する道具です。 |
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印刀は、仕上刀と違い、使う印刻師によってもそれほど刀の角度や厚みは変わらない道具です。 添え木をテコの支点にして彫り進めます。 |
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印刀は、細い刀の1番刀から5番刀までの5本が標準です。1番刀は刃が薄い為鈍角に研ぎ、2・3・4と厚くなると、徐々に鋭角に研ぎます。 若い頃の私は凝り性でありましたので、10種類作りましたが、実際に使用するのはほとんど5種類で、残りはお飾り状態になりました。 先人の知恵は素晴らしいと思いました。 |
◆印泥◆ | |
印章を押印する朱肉のような物です。 篆刻に使用することが多く、種類にもよりますが、朱肉に比べかなり赤く感じます。 バレンを使うと綺麗に押印できますので印章では主に競技大会に出品する時に使用します。 |
◆硯(字入れ用)◆ | |
布字(字入れ)用の硯です。半分に分かれておりますのは、片方は墨。もう片方は朱墨を使用するためです。 |
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字入れ用の硯です。半分に分かれておりますのは、片方は墨。もう片方は朱墨を使用するためです。 最初、印面(彫刻面)に朱墨を付け、墨で文字を逆さまに書いてゆきます。朱墨は、文字の修正等に使用いたします。 修行時代は、競技会の角印など文字を何度も書いたり消したりと繰り返しておりました。 何度も書き直しをしますと、盛り上がってきて油絵のように表面がデコボコになることもありました。 |
◆硯(墨打ち用)◆ | |
字入れ用と異なりましてこちらの硯は、印面の墨打ち用に使います。 |
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墨打ちとは、荒彫りが終わった後、印面をトクサ(紙ヤスリのような物)で整えてから、本つげや本象牙には墨。黒水牛や白水牛には朱墨を打ちます。 そうしますと印面の彫刻具合がよく見えますので、仕上がしやすく印面が美しくもなります。 当店では、お客様に彫刻状態を見ていただく為に、墨や朱墨を付けたままお渡しをしておりますが、印面の墨をふき取ってお渡しするお店もあります。 どちらにも一長一短があると思われますので、どちらが良いとはいえません。 |
◆篆刻台(てんこくだい)◆ | |
荒彫りを行う時に印材を挟み込み固定する道具です。 |
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荒彫り用には、下において彫刻する左の写真のような篆刻台を使用いたします。 印材の大きさによりまして板の枚数を調節して、右の2枚はクサビで斜めの板になっており、板を押し込んで印材を固定します。 他には、印材を直径約4、5㎝、長約さ20㎝位の棒状なものに印材を挟み込む棒台を使用する技術者もいらっしゃいます。 |
◆ディバイダー◆ | |
文字の字割りや会社実印の中枠を書くのに使用いたします。 |
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例えば角印に2文字彫刻する場合、印材の中心を計り、文字のスペースを決める時などに使用します。 |
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今時、写真のようなディバイダーを使用している技術者は余りおられないのではないかと思います。昔の道具ですが、親父の代から使用しておりますが、丈夫で多分一生使っていける愛着のある道具です。 |
◆篆刻字林◆ | |
篆書体の辞書。楷書体より篆書体の小篆や印篆にあてはまる文字の形を調べられます。 |
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この辞書も親の代からのもので、もう50年以上前の辞書です。 表紙はボロボロになりましたが、紙の質が良いためか、今でも支障なく調べられます。 独学で悪い癖ばかりつけてまいりましたが、一つだけ同じ文字でもその都度何度も何度も調べるという良い習慣もつきました。 |
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昔の職人さんの多くは弟子入りで、今のようにお給料ではなく、お小遣い程度のお金しかもらえなかったと伺いました。当時は篆刻字林は高価な物だったらしく、少ない小遣いから分割で購入されたという苦労話をよく聞いた思い出があります。 |
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