■職人の刀法・仕上げ■ |
●仕上げという刀法● |
機械彫りの印章と、職人の刀法による仕上げてある「手仕上げの印章」はどう違うのか?疑問に思われておられるお客様も多いことと思います。 印章の彫刻技術は、荒彫りと仕上げの二つの工程にわかれます。仕上げという刀法は、印章彫刻技術者の個性と技量の違いがはっきりと現れる作業です。 仕上げという作業は、荒彫りをした文字の線を、仕上刀(刃物)で削り、文字の形を整えるだけではなく、文字の線に活き活きとした力を加える作業です。 印章技術というものは、いくら言葉を積み重ねて説明してもおわかりいただく事は難しいものですので、実際の物を見ていただける事が一番良いのではないかと思いました。 そこで仕上げという刀法を比較して見ていただく為に、荒彫りをあえて機械で行なった物とその印章を元に仕上げたものを載せました。 なお、荒彫りも印刀で行ったものを「手彫り印章」といいます。作品展示室にも競技大会等に出品したものの一部を掲載しております。 一目で分かるようにと実際に彫刻した印章の画像を拡大してお見せしております。小さい物を拡大しますと刀法の粗(あら)が見え易いので恥ずかしいのですが、あえて掲載いたしました。 片方だけ仕上げた途中図も掲載しておりますので、手で仕上げた文字と機械で彫りっぱなした文字をじっくりと比較してみて下さい。 ※パソコンのフォントの文字はあまり良くなく、そのままでは仕上げをする気がおきませんので、文字の形や全体の配分・構成に関しましては当方で修整・編集いたしました。 |
●認印「山口」楷書体● |
原寸10、5㎜丸
① | ② | ③ |
①は機械彫り、②は枠と「山」のみ手仕上げを、③は全てを仕上げました完成品です。 ①に比べまして②の「山」や③の印章は、枠と文字の線が刃物により両側から削られているのがお分かりいただける事と思います。 また、①に比べ③の方が線がシャープで綺麗であることがわかります。これは大工さんに例えますと、電気ノコギリで切った断面と、カンナ(刃物)で削った断面との違いのようなものです。 ドリルで彫ったものより、手技による刃物で削った方が細かい所や微妙な曲線等に対応できます。この作業により押印したときも印影が綺麗に写る事となります。 昔、小学校高学年の姪っ子に、機械彫りと仕上げたものを見せましたら「全然違う。仕上げた物の方が線が綺麗。」と言われました。 子供の目は、視野が狭い分集中力があり、細かい所も余すこと無く深くしっかりと見えているようです。もし、小学生のお子様や中学生がおられましたら、是非一緒に見ていただきたく思います。 |
●認印「山口」印相体● |
原寸12㎜丸
① | ② |
二つとも彫刻文字は「山口」印相体です。①は機械彫り、②は手仕上げをほどこしております。 ①は、文字構成を除けば大量生産で彫刻・販売されている、ごく一般的なものです。 もし、①の印章を見せますと、別注品だと言われる方もいるかもしれませんが、ある程度の印章技術者が見ますと、多分出来合の既製品だと言われる事と思います。 なぜかと申しますと、印章彫刻技術としては絶対必要な仕上げという工程が省かれておりますので、とても完成品とは思われないからです。 ②は手作業による仕上げが全体にほどこされておりますので、印章に必要な「唯一無二」のものになっております。 玄人目には、①と②は一目で全然違うものと思いますが、一般の方には、どのように見えるのでしょうか? |
●角印古印体「宇部宇部」・印相体「山口宇部」● |
① | ② |
原寸18㎜角 | 原寸15㎜角 |
①は古印体、2行とも全く同じ文字を、左行の「宇部」のみ手仕上げを行いました。 右行の機械彫りの「宇部」と見比べてみて下さい。文字の線を両側から削り、文字の形を整え、線に強弱(抑揚)や曲線をつけて、文字が福よかで柔らかくなっているのがお分かりいただける事と思います。 ②は印相体で「山口宇部」と彫ってあります。左行の山口のみに仕上げをほどこしました。「山口」と「宇部」の線を比較して下さい。 仕上げてある方が線の交わる所などスッキリと鮮明でしっかりと表現出来ております。 又、押印してみるとわかるのですが、仕上げがほどこしてある方が朱肉の乗りもよく鮮明に押印出来ます。 |
●角印「山口宇部」篆書体● |
原寸18㎜角
① | ①は機械彫りです。篆書体で「山口宇部」と彫ってあります。社印で一般的な枠が太くて文字の細いパターンです。 機械彫りでここまで線を細くしますと、土手のない堤防のようなもので線が脆く、長持ちはしないと思います。 また、線自体に勢いがなく印影の写りも鮮明ではなくなります。 |
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② | ②は枠と「山口」のみ手仕上げをほどこしました。左行と右行を比較してみて下さい。 左行の「山口」はは右行の「宇部」と同じくらいの細さに削っておりますが、線自体がしっかいしているように見えることと思います。 |
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③ | ③は「山口宇」の3文字のみ仕上げました。 ①と比較していただけましたら、文字が生き生きとして線や枠が綺麗に見えることと思います。 彫刻面からでも手仕事の良さがきっとおわかりいただける事と思います。 |
●角印「株式会社山口宇部印」篆書体● |
原寸21㎜角
① | ② |
①は機械彫りです。「株式会社山口宇部印」と彫刻してあります。 文字の線をご覧下さい、全体に弱々しく生命が感じられないように思います。 また、細かいところが雑で、線自体も不揃いなものになっております。 実際には、この彫刻状態で販売されてあることも多く、残念に思います。 |
②は全体に手仕上げをほどこしております。①の線と比較してみて下さい。 一本一本の線が生き生きとして、勢いもありしっかりした感じに出来上がっているように思います。 また、線自体にも微妙な曲線にして仕上げておりますので、文字も柔らかな印象になっております。 |
●役職印「株式会社山口宇部・代表取締役印」篆書体● |
原寸18㎜丸
① | ② |
①は機械彫りのままの状態です。不揃いでヨレヨレとした勢いのない線が気がかりになります。 外枠は「株式会社山口宇部」。中枠は「代表取締役印」と彫刻しております。 印章業界でも、きちんと彫刻が出来る職人が少なくなってきております。 この彫刻状態でよければ、今後修行をされる若い方が更にいなくなるのではないかと思われます。 |
②は外枠の「株式会社山口」の6文字を、中枠は右行の「代表取」だけ仕上げをほどこしました。 ①もしくは仕上げをしていない機械彫刻の文字と比較してみて下さい。 中枠の「代表取」と左行もしくは左の印影の中枠の「代表取」との違いがおわかりいただけるのではないかと思います。 手仕上げをほどこしてある文字や線はなめらかであり、仕上刀による刀の切れ味がおわかりいただける事と思います。 |
今回は仕上げの刀法を見ていただく為に、「手仕上げ」又は「手彫り仕上げ」の印章をサンプルにしてみました。如何でしょうか? サンプルは実店舗にも展示しております。拡大鏡(虫めがね)もご用意しておりますので、実際の印章をじっくりと見ていただけましたらと思います。 仕上げという刀法は、文字の形を整えるだけではなく、機械彫りによる生気の無い線に、仕上刀により文字の線に勢いをだし、文字に生命を与えます。 また、なにより高度な手作業により、一番大切な「唯一無二」の印章に仕上げることになります。 機械彫りと手仕事の違いがわからないと言われる方には、このページの画像をじっくりと見ていただけましたらと思います。 |
職人の刀法・仕上げ密刻編では文字だけではなく、木口密刻という作品の絵柄がどの様に完成して行くのかを観ていただきたく思います。 通常では余り観る機会はないと思いますが、荒彫りのままの線が少しずつ仕上がっていく作品の変化を感じていただけましたらと思います。 |
★ 令和元年木口密刻完成作品印影 ★ | |
第67回「大印展」 木口密刻の部 無鑑査出品作品 『天皇在位三十年』 書体 篆書体・小篆(天皇在位) 隷書体(三十年) (原寸36㎜角) |
作品の原寸は36㎜角です。細かい作業でありますので、原寸では観づらいと思いますので細部が解りやすいように、印章の彫刻面と印影を拡大しております。 |
① | 木口密刻作品の「仕上げ」という工程の途中図の印影です。イメージでは海の上を雲に乗った「龍」が飛翔しているという感じです。 既に龍の顔・爪・腹・背ビレ・雲と文字は仕上げの工程が施されております。 この時点より木口密刻作品の完成までの工程を観ていただきたく思います。 今回は、作品の良否ではなく印章彫刻の「仕上げという刀法」による変化を楽しんでいただけましたらと思います。 |
①の印影の作品より、上下の雷紋に仕上げを施しましたのが②です。大変観づらくて申し訳ありませんが①に比べて上下の雷紋がスッキリして見えている事と思います。 |
実際の印章の彫刻面 | 印影 | |
② |
②の作品より、更に左右の雷紋に仕上げを施しましたのが③です。②に比べても左右の雷紋の線がスッキリして見えている事と思います。 |
実際の 印章の彫刻面 | 印影 | |
③ |
③の作品より、龍の背中のウロコを仕上げたのが④です。数多くの細かな点(穴)を一つ一つ仕上げ刀で削って整えていく気の遠くなるような作業です。③との違いがお解りいただけるのではないかと思います。 |
実際の印章の彫刻面 | 印影 | |
④ |
④の作品より下部の波を仕上げたのが⑤の作品です。波の部分の線はかなり細い線ですので削りすぎて無くならないようにと気を使いながら仕上げの作業をしていきます。④と比較してみて下さい。 |
実際の印章の彫刻面 | 印影 | |
⑤ |
⑤の作品より、龍の顔側の波を仕上げたの⑥の作品です。極細の線は特に刀の切れ味が出なければスッキリと表現出来ないので、気をつけて仕上げます。 |
実際の印章の彫刻面 | 印影 | |
⑥ |
⑥の作品より、いよいよ最後まで残っていた印影で向かって右の波を仕上げたのが⑦の作品です。ほぼ完成です。 |
実際の印章の彫刻面 | 印影 | |
⑦ |
⑦の作品で密刻作品の一応の完成です。、これよりは細部の微調整と絵柄の修正をして出品の運びとなります。最初の文字や図柄の構成から、荒彫り・仕上げの工程を含めますと数十時間という長い時間がかかりました。 年齢の事もあり、今後はもう木口密刻を出品彫刻することはないと思います。最後の作品として楽しんで観ていただけましたらと思います。 |
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